TUにいいかもよ
TUにいいかもよ
泣かないで
泣かないで

作曲が佐藤寛氏、即ち野口五郎さんの実兄で、編曲が筒美京平氏。

シングルで筒美氏がアレンジだけを担当するのは極めて珍しいのですが、

野口五郎さんの19771月発売のシングル「むさし野詩人」では

再び佐藤氏の作曲でアレンジのみを担当しているんですね。

 

 

「私鉄沿線」は当初「白い風景」と言うタイトルで、それが

「私鉄の沿線」となり、それから野口五郎さんの案で「の」を取り

「私鉄沿線」となったそうで、この曲の大ヒットの影響で

それまでなかった「私鉄沿線」と言う言葉が日常化した、との事です。

 

 

野口五郎さんは歌う時、特に高音部の時に眉根がキュッと上がって

かなり極端な八の字眉になるんですよね(^^)

中学生くらいの時、武士眉毛の私にはそれが不思議に見えました(^^;)

 

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全体の構成は2ハーフ、と言うよりも23/4ですね(^^)

 

 

各コーラスはきれいにABCD と分かれていて、

まさに起・承・転・結となっています:

 

Aメロは ♪改札口で好きでした♪ (16小節)

Bメロは ♪悲しみに心変わりました♪ (10小節)

Cメロは ♪僕の街で飲みませんか♪ (8小節)

Dメロは ♪あの店でいるのかと♪ (8小節)

 

Bメロ以外は弱起で、頭の半拍は直前の小節に食い込んでます。

 

 

キーは Fm で、転調はありません。

 

 

音域は下の C から上の A♭までの1オクターブ+短6度とかなり広いんですね。

 

前作の「甘い生活」では下の C# から上の G#(=A♭)の1オクターブ+5度で、

歌詞を含めた全体の作りを考えても、やはりこの2曲は共通点が多いようです。

 

 

野口五郎さんの楽曲は最高音が上の G あるいは G#A♭)である事が多いのですが、

それは音色的にそれが野口五郎さんの音域の上限である事、

また麻丘めぐみさんのように上限近くになると音色が切なく聞こえ、

それが日本人の琴線に触れやすいと言う事が理由なのでしょう。

 

 

イントロ、1回目の間奏、そしてエンディングで使われている

シタールが楽曲のインパクトを強めていますね(^^)

 

ジュディ・オングさんの「魅せられて」で聞けるブズーキなど、

筒美京平氏のアレンジでは民族楽器が時々使われていますが、

シタールは後に庄野真代さんの「モンテカルロで乾杯」(1978年)などでも使われ、

どことなく日本の琵琶(びわ)に似たその音色が、

やはり日本人の感性に合うのかも知れません(^^)

 

 

イントロのコード進行は FmBmGm7-5… なのですが、

不安定な響きで、つなぎ程度にしか使われない事が多い

m7-5系のコードが、この曲では2小節も引っ張られているんです。

 

歌詞の主人公の寂しく、また割り切れないような感情が

そこですでに表現されているかのようです。

 

 

そのような表現はイントロだけではなくて、

Aメロの ♪いつも待ったものでした♪ に続いて F79

ハーフの頭2小節では C79 と言ったテンションコードが用いられ、

その微妙な響きがまた、聴く人の感情を揺さぶるのかも知れません(^^)

 

 

ハーフは BCDメロで出来ていますが、

その中の Bメロは1コーラス目、2コーラス目のそれとは

違うアレンジになっている事も重要なポイントですね(^^)

 

 

そしてエンディングでは、イントロと同じようなフレーズが

シタールにストリングス高音部がユニゾンで加わった形で演奏され、

よく耳にするパターンでありながらドラマ性を感じさせます。

 

 

 

左: ストリングス(高音部) エレキギター トランペット

 

中央: ドラムス ベース シタール ピアノ ホルン

 

右: ストリングス(低音部) トロンボーン シェイカー

 

 

エレキギターは全体を通してコードのカッティング演奏を行っていますが、

1コーラス目と2コーラス目のBメロの時にだけワウを通したり、

CDメロの時にはハイポジションと音色を変え、変化をつけています。

 

それにジャズっぽい演奏のピアノが加わり、全体のコード感を安定させています。

 

 

ホーン・セクションはトロンボーン×2、トランペット×2であるようで

あまり目立たないものの随所でメリハリをつけていますが、

それとは別に所々で「ジャングル大帝」のテーマ曲をを思い出させるような

ホルンが鳴り響き、ちょっとドキッとします(^^;)

 

 

ストリングスはステレオ収録のようですが、中抜け状態で

高音域が左、低音域が右に分かれているように聞こえます。

 

そして高音部、低音部とでオクターブ差のユニゾンで演奏しているパートが多く、

駆け上がりのような細かい音の動きも同期しているので、

チェロ奏者は演奏が大変だったかも知れません(^^;)

 

1コーラス目、2コーラス目が終わる時にチェロが2拍で間奏につなげるための

フレーズを演奏しているのですが、意識して聴くとこれがかっこいいんです(^^)

 

 

イントロではシタールに続きストリングスがメロディーを受け継ぐのですが、

オリジナル・カラオケではシタールが演奏されているバックですでに

ストリングスの高音部が白玉*で鳴っているとミックスによる違いがあります。

 

野口五郎さんの他の楽曲でも、例えば「君が美しすぎて」では

歌入りとカラオケとで楽器の配置や音量バランスが全く違っていたり(特にコーラス)、「青いリンゴ」では歌入りに較べカラオケの方が半音ほどピッチが低かったりと、意識的なのかそうでないのかよくわからない違いが散見されます。「新御三家」の中でひときわミュージシャンの雰囲気を持っていたのが

野口五郎さんであったように思います。

 なかなか賞には恵まれなかったようなのですが、この年(1975年)の暮れに

日本歌謡大賞の放送音楽賞に「私鉄沿線」で入賞した時、

「やっと獲った」と涙していたのが印象に残っています(^^)

 「私鉄沿線」

作詞 : 山上路夫

作曲 : 佐藤寛

編曲 : 筒美京平

レコード会社 : ポリドール

初発売 : 1975120